理事長のあいさつ

安全・安心な社会の実現のためには、
まず生活空間の安全の確保が必要です。

LSO技術顧問 河田 惠昭 関西大学理事・社会安全学部・社会安全研究センター長・特別任命教授、
阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター長
理事長 河田 惠昭

関西大学理事・社会安全研究センター長・特別任命教授
阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター長

1995年阪神・淡路大震災では、直後に住宅の全壊・倒壊によっておよそ5千人が犠牲になり、このとき初めて地震時に木造密集市街地の古い住宅が凶器になることがわかりました。それまでは1923年の関東大震災の事例から、地震時に火災さえ発生しなければ、大きな人的被害とはならないと考えられていました。原因は火災だけではなかったのです。阪神・淡路大震災が起こって政府も住宅の耐震改修の重要性を認識し、耐震化を促進する法律が整備されると同時に建築基準法も改正されて参りました。

この震災はわが国が地震活動期に入った証拠であり、全国各地で被害地震が発生するようになりました。そして、住宅耐震化推進の効果も大きく、地震の揺れによる住宅被害に起因した犠牲者がゼロもしくは少なくなるという極めて大きな成果が得られるようになりました。しかし、この被害の実態を解析しますと、住宅の耐震化率の向上は古い住宅の建て替え需要によるものが大半であり、古くからの住民が住む住宅の耐震改修はあまり進んでいないのです。すなわち、近年の地震による犠牲者の減少は、地震そのものが幸い古い住宅密集市街地とその周辺で発生してこなかったことが最大の理由です。したがって、現在もそこで地震が起これば、大惨事の発生危険性が極めて大きいと言わざるを得ません。

現在のわが国は地震活動期の真っただ中にあり、とくに南海トラフ巨大地震や首都直下地震などが国難災害として起こる危険性が日ごとに高くなってきている現在、未だ耐震改修されていない古い住宅は地震時に凶器になることを忘れてはなりません。そして耐震改修しない住宅に住み続けることは、地震がもつ様々な危険の存在も無視することにつながっています。無関心こそが被害を被る一番大きな原因なのです。私たちの組織は、阪神・淡路大震災を教訓にして設立されました。目標は、地震時に住宅被害からいのちを守ることです。それを実現するために、自助、共助、公助の3つのレベルの減災努力が結実することを目指します。

2020年12月1日
河田 惠昭

〇河田 惠昭のプロフィール
  • 1946年 3月4日大阪府生まれ。
  • 1974年 京都大学大学院工学研究科博士課程修了。工学博士。
  • 1976年 京都大学防災研究所助教授
  • 1993年 京都大学防災研究所教授
  • 1996年 巨大災害研究センター長
  • 2010年 関西大学・社会安全学部長。2012年より現職。
21世紀COE拠点形成プログラム「災害学理の究明と防災学の構築」拠点リーダー。 大都市大震災軽減化特別プログラム(文部科学省)研究代表者。
日本自然災害学会元会長、日本災害情報学会元会長。 政府関係では学術審議会委員(文部科学省)、中央防災会議「首都圏直下地震対策専門調査会」委員、「東南海、南海地震等に関する専門調査会」座長代理、「大規模水害対策専門調査会」副座長。2007年国連SASAKAWA防災賞(本邦初受賞)。
2009年防災功労者内閣総理大臣表彰。ほかに、内閣府、内閣官房、国土交通省、外務省、気象庁、消防庁の各委員。 著書に『これからの防災・減災がわかる本』、『スーパー都市災害から生き残る』、『防災学ハンドブック』(共著)、『12歳からの被災者学-阪神・淡路大震災に学ぶ78の知恵』(共著)など